Every Feature Has a Purpose すべての細部には理由がある マイク・グラハムのクラフトマンシップ

Mike Graham はこれまでROKXパンツをはじめとして、数多くのアウトドア・ギアを生み出してきた。そんな彼をモノづくりに導いていったのは何だったのだろうか。そしてどのようにしてモノづくりのスタイルを確立していったのだろうか。

CRAFTSMANSHIP あらゆる部分には理由がある ~マイク・グラハムとモノづくり~

マイクさんはROKXでのクライミングパンツだけでなく、さまざまなアウトドアに関するアイテムを自ら生み出してきています。

商業的な意味で最初に作ったのは、クライミング途中でビバークするための簡易テント「ポータレッジ」だね。今でこそ一般的な道具になっているけど、当時そんなものはどこにもなくて、僕がはじめて形にしたんだ。その他「ホールバッグ」もはじめて自分で縫製したクライミングギアで、当時までどこにもなかったものだ。縫い方は母が教えてくれた。その他、クライミングハーネスが生まれる前に同じ役割を担っていた「ビレイシート」なんかもある。これらは僕がヨセミテに通っていた時に自作していたものだけど、それ以降も色々なブランドでスリーピングバッグやテント、インサレーションジャケットなどギア・アパレルに限らずいろいろなモノづくりをさせてもらった。みんながROKXで知っているガセット入りのクライミングパンツは、僕がたくさん手がけてきたうちのひとつなんだ。そして今でもいろいろな人と共に、新しいアイデアを形にする仕事は続けているよ。

あなたがアウトドア・ギアの開発を自分の仕事にしようと決めたのはどんなきっかけだったのですか?

ビジネスかどうかの境目は明確にあったわけではないんだ。僕がビジネスを始めようと思った頃、すでに僕は40~50くらいのポータレッジを作っていた。僕の周りにいた、デイル・バード、ジム・ブリッドウェル、ロン・カウクなど世界的に優れたクライマー達が、みんな僕のポータレッジを気に入って注文してくれていたんだ。オフシーズンの間に自分のパートタイムの仕事の傍ら制作して、そしてシーズンがはじまる頃に完成させたものをヨセミテに持ち帰っていっていた。そうやって最終的には400くらい作っていたと思う。その時にはすでに縫製ミシンを何台か持っていたんだ。

PHOTOGRAPHER: HAO MODA

同じ時期、ヨセミテにいた頃何度か一緒に登っていた友人の一人がイヴォン・シュイナード(パタゴニアの創業者)だった。彼は僕の自作ギアのことを知ってくれていて、ある時「マイク、もし君がベンチュラに来たいと思ったら、君のために縫製工場を用意して、ビジネスに必要なものを用意してあげるよ」といったんだ。

6ヵ月後、当時の彼女(今の妻)とカリフォルニアのベンチュラに車で駆けつけ、彼のお店に行ったんだ。僕が「戻ってきたよ」というと、「それはいい。いくつかいいアイデアがあるんだ。ハーネスを作ろう」とイヴォン。そこからシュイナード・イクイップメント(後のブラックダイヤモンド)のためにいくつかのギアを作った。テントやスリーピングバッグや、ハーネスのバリエーション、クライミング向けソフトパックなど。このビジネスはどんどん成長していった。縫製ミシンと縫子さんたちをたくさん増えていった。

そうこうしているうちに、1982年、僕は自分が本当に必要だと思うウェアを作るためのブランドを立ち上げた。そのタイミングは完璧だった。なぜなら、当時クライミングにピッタリのパンツのアイデアがどこにも、まったくといっていいほどなかったから。

当時クライミングで穿いていたパンツといえば、おそらくアルパインシェイプの、ナイロン生地で、滑りやすく、クライミングに適しているとはいえない代物だった。それに対して僕の作った「グラミチパンツ」はガセットがあって段違いに動きやすく、さらに多用途に使えた。これはすごく大切なことで、どんな動きにもストレスなく追従する抜群の動きやすさがあることでいろんなアウトドアアクティビティに使える多用途性を備えたんだ。

そう、僕が作るウェアはすべてこの「ユーティリティ性」がベースにある。それは同時に道具や身に着けるものによってどれだけその体験がより良いものになるのかということを常に心がけていることでもあったんだ。ポータレッジは睡眠体験をより良いものにし、クライミングパンツはクライミング体験をより良いものにする。すべての道具はそうあるべきだと思うよ。

多くのユーザーが、僕に「よく登れるようになった」という喜びのレターを送ってくれた。非常にいいスタートのタイミングだった。今ではそれはスタンダードになり、みんながガセット付きのパンツを作っているけどね。

PHOTOGRAPHER: SHIMPEI KOSEKI

新しいアイテムのアイデアはどんな時に思い浮かぶのでしょうか?そしてひらめきから形になるまで、自分なりのやり方・スタイルのようなものはあるのでしょうか?

いつもは、何かアクティビティをしていてまさにそれが必要になった時に「こういうのが欲しい」という思いとともにアイデアが浮かぶんだ。例えばポータレッジの場合、クライマーは長いルートになると、登っている最中に夜を明かさなくてはならない。その際、ハンモックだと、不安定だし、肩は窮屈だし、目の前は岩壁だし、非常に不快で寝られたものじゃなかった。ある時仲間とクライミング中、クリフの上で夜で寝ているその瞬間に「もっといいものがある」という考えが浮かんだんだ。

僕にとってモノづくりでアイデアが浮かんでくるのは、いつもこうやってアクティビティをしている最中。まさにもっといいものが必要だと心から思ったときに「こういうのが欲しい」というアイデアに巡り合うんだ。

そして思い浮かんだら、すぐにプロトタイプを実際にすぐ作ってみて、テストする。特に洋服の場合なら僕はパターンも作れるし、ミシンで縫うこともできるから、すぐ自分で試すことができる。そして自分である程度納得したら、近い友人などに使ってみてもらって、フィードバックをもらいながら、長くて4~5年かけて完成品になっていくんだ。

それはいいものを作るうえではとても重要なことだと思うよ。なぜならまず自分で何がどうやって作られているのか知っていることは、使ってみて何が機能しているか、していないかを正確に把握できるんだ。それから設計図を外国に送って、何週間も待ってプロトタイプサンプルを取り寄せるなんて無駄な時間も必要ない。

そうしたモノづくりのスタイルにはどうやってたどり着いたのでしょう?

思えば幼いころからそんなモノづくりをずっと続けてきた。僕のモノづくりについて、最も多く影響を受けたのは父からだった。父は建築の仕事をしていた。幼いころから、父の仕事をみてたくさんのことを教わった。父は僕を夏休みになると現場に連れて行ってくれて、たくさんの仕事を見せてくれた。僕はずっと父の仕事を眺めていた。どうやって物と物を繋げるのかとか、エンジニアリングについてのシンプルな部分を含めて、たくさんのことが自然に沁みついていったんだ。その時の経験は、僕をモノづくりに向かわせるきっかけになったとはっきりといえる。

PHOTOGRAPHER: SHIMPEI KOSEKI

モノづくりをするうえで、一番大切だと思うことは何でしょう?

自分にとっては、モノづくりの根本から細部に至るまで、すべての部分においてそうであるべき「理由(目的)」が無ければならないんだ。なぜそのシェイプなのか、なぜそのように縫うのか。すべての細部には「目的」が備わっているべきなんだ。

ものを作り上げていくときにいつも自分に問いかけているのは「もしそうする目的がないのであれば、それをやるべきではない」ということだ。細部にわたるまで理由があるということが、その道具のユーティリティ性に結びつく。僕の場合、その理由は先ほど言ったように、それがアクティビティをより良いものにするかどうかということで、結果としてはそれがファッション性と相反することも時にはあるけどね。

PHOTOGRAPHER: HAO MODA

最後に、アウトドアに限らずさまざまなモノづくりを志す若いデザイナーやクリエイターに対して一言。

大きなブランドに限らず、あらゆる場所で活動するデザイナーたちにいえるのは、自分のもっているアイデアを信じて、それにブレーキをかけずにとことん追求するべきだということ。何かを起こしてみようとし続けるべきだと。時には困難もあるし、時には簡単にいくかもしれないけど。でもそれは必ず努力する価値があるということを言いたいね。